2013年4月に待望の定期接種となったにも関わらず、同年6月に「積極的勧奨の中止」という非常に曖昧な措置がとられるという、一風変わったワクチン。
接種後、重い症状が数名に出現したため、ワクチンとの関連を否定できず、いったん棚上げにされました。
その後の調査によりワクチンの関連性がクリアになり、2022年4月から「積極的勧奨」に復活しています。
そんな異例な経緯を辿ったワクチンですので、不安や疑問がたくさん寄せられますので、ちょっと整理して解説してみたいと思います。
そもそも、なんでワクチンで子宮頸がんを防げるの?
ワクチンというのは、本来はウイルスや細菌などの微生物の感染を予防するものです。
なので、通常はその微生物の名前がワクチンの前につきます。
「インフルエンザワクチン」とか「水痘ワクチン」のような感じですね。
そういうルールでいけば、この子宮頸がんワクチンの本名は「HPVワクチン」となります。
HPVとは「Human papillomavirus」の略です。
日本語表記すると「ヒトパピローマウイルス」ですね。
このHPV、人の細胞、特に皮膚や粘膜にくっつくと、それらの細胞を異常増殖させてしまう性質があります。
子宮頸部(子宮の出入口)にHPVが感染すると、子宮頸部が癌化して子宮頸がんを引き起こすのです。
子宮頸がん全体のうち、95%はHPVが原因で、5%はそれ以外の原因で起きると言われています。
つまりHPV感染を防げば95%の子宮頸がんを救える計算になります。
ですのでそれを逆算して、「ワクチン接種でHPVにかからなくなれば、子宮がんになりにくくなる」という理屈で「子宮頸がんワクチン」と一般的には呼ばれているわけです。
子宮頸がんって、どんな病気?
日本では、毎年約1万人の女性が子宮がんになっており、約2800人が亡くなる病気です。
癌というと比較的高年齢の方に起きる病気と思われがちですが、子宮頸がんは若年女性でもなり得る癌です。
この数十年で、子宮頸がんにかかる年齢のピークは40代にシフトし、30代でなる人も増えています↓
上にも書いたように、子宮頸部にHPVが感染することで癌化するのですが、感染経路は性的接触、つまりセックスです。
したがって、セックスをする年齢になる前に、ワクチンで予防しようというのがこのワクチンの狙いなわけです。日本では中学1年〜高校1年が対象年齢になっています。
このHPV、感染してすぐに症状がでるわけではなく、数年〜数十年経過してから子宮に病変を作ります。
厄介なのは、発癌初期は殆ど症状がないということです。進行すると痛みや不正性器出血などの症状が現れます。
つまり症状が出てからでは遅いので、予防と検診が重要とされています。
HPVってどんなウイルス?
HPVには百数十種類以上があることがわかっています。
ただし、数あるHPVが全部子宮頸がんを引き起こすわけではありません。
子宮頸がん以外にも、「尖圭コンジローマ」という性病を起こすHPV、それ以外にも指や顔などにできる「イボ(尋常性疣贅)」を起こすHPVがあります。
100種類以上あるHPVの中で、子宮頸がんを起こす悪玉HPVとも言えるのは15種類程度ということがわかっています。
さらにその中でも悪いヤツは2つ。 背番号「16」と「18」です。
この2つで、HPVが関係する子宮頸がんの6割以上を占めています。
この2種類はワクチンとしては必須で、どの製品にも含まれています。
ワクチンにはどんな種類があるの?
現在日本で承認されている子宮頸がんワクチンは3種類あります。
- サーバリックス(2価):GSK社
- ガーダシル(4価):MSD社
- シルガード9(9価):MSD社
この3つのうち、上の2つが定期接種(公費・無料)として認められているワクチンです。
一方、シルガード9というのが最近発売された新しいワクチンで、こちらはまだ自費でお金を払って打つ必要があるワクチンです。
この「2価」とか「4価」とか「9価」というのが何を言ってるかというと、 何種類のウイルスに対応するか という事なんです。
2価のサーバリックスは16と18の2種類のウイルスのパーツが入っています。
じゃあ、4つ入っているガーダシルや、9種類入っているシルガード9はどうなのかと気になりますね。
それぞれ16と18に加えて、
- ガーダシル: 6、11
- シルガード9: 6、11、31、33、45、52、58
のウイルス型が含まれています。
この2種類のワクチンに含まれる「6」と「11」は子宮頸がんではなく、尖圭コンジローマという性病を起こすHPVです。
残りの31・33・45・52・58は、16と18ほどではないですが、子宮頸がんを起こすHPVです。
16と18で60%以上の子宮頸がんをカバーできますが、その他の5つも加えると95%以上をカバーできることになります。
ただし、上にも書きましたがシルガード9はまだ定期接種に採用されていませんので、シルガード9を希望される方は自費での任意接種として接種することになります。
価格は医療機関によってバラバラですが、1回あたり3万円程度、3回で10万円程度が相場のようです。
副反応はどんなものがあるの?
HPVワクチン接種後に見られる主な副反応としては、発熱や接種部位の痛みや腫れなどが主なものです。他にも様々なものが報告されていますが、それらは接種との因果関係に関係なく報告されるので、無関係のものも混じってきます。
この中には稀ではあるものの、重い症状のものもあり、具体的には以下のような感じになっています。
他には、注射による痛み・恐怖・興奮などをきっかけとした失神などが挙げられます。
積極的勧奨の見合わせのキッカケになった「多様な症状」というのは、具体的には
- 広い範囲に広がる痛み
- 手足の動かしにくさ
- 不随意運動(動かそうと思っていないのに体の一部が勝手に動いてしまうこと)
というようなものがあり、当時の報道ではセンセーショナルな映像が何度も流されていたのが記憶に残っておられる方も多いかもしれません。
その後、厚生労働省の専門家会議が継続的に議論・調査・研究を進めてきましたが、2021年11月12日に開催された会議において、安全性について特段の懸念が認められないことが確認され、「接種による有効性が副反応のリスクを明らかに上回る」と認められました。
そうして今回、2022年4月1日から、通常の定期接種として積極的に勧奨されることになりました。
子宮頸がんワクチンの今後
まずは2022年4月からの積極的勧奨の再開を歓迎したいと思います。
また、積極的勧奨の中止期間中に定期接種の年齢が過ぎてしまった方に関しては、救済措置がとられています。
詳しくは厚生労働省のHPか、下記リーフレットをご覧ください。
現在、定期接種として選べるワクチンは「サーバリックス」と「ガーダシル」のみですが、2022年3月の厚労省の会議で、将来的にはシルガード9を採用する方向性は承認されましたので、数年後にはシルガード9を定期接種で使えるようになると考えられています。
ただし、まだ「方向性が承認された」という段階ですので、本格稼働までは通常2〜3年かかります。
シルガード9を待ちたいというお気持ちは理解できますが、定期接種には厳格な接種期間というのがありますので、対象期間を逃さないようにすることが最も大事です。
また、これは随分先になるかもしれませんが、この子宮頸がんワクチンを男性にも接種している国もあります。性的交渉により感染するウイルスですので、本来は女性だけに接種するよりも男性にも接種して感染を拡げないようにした方がいいですよね。
日本でもガーダシルに関しては男性にも接種(自費)が認められています。女性を守るために男性も接種する。そんなことが当たり前になる時代になると良いですね。
2022年4月から積極的勧奨が再開されるにあたり、今一度みなさんにわかりやすい情報をお届けしたいと思い、今回取り上げてみました。
わかりやすさに焦点をあてたので、細かな情報は割愛している部分もあります。
詳しくは厚生労働省のHPに掲載されていますので、ご不明な点はそちらもご参照いただければより理解が深まると思います。
子宮頸がんの好発年齢は30-40代ですので、子育て中のママに子宮頸がんが見つかるケースを私も何人か遭遇したことがあります。本人はもちろん大変ですが、万が一のことがあったときには残された子どもたちは辛い状況に置かれます。
小児科医としてもそのような悲惨な状況が生じないよう、改めて正しくHPVワクチンが普及することを切に願います。
コメント