ポリオ(急性灰白髄炎)

感染症科
ケイジ理事長
ケイジ理事長

医療関係者ではなくとも「ポリオ」という名前だけは聞いたことあるという方が多いと思います。

小児医療では重要な感染症ですが、ワクチンの普及により日本では1980年から発生がなくなり、実は小児科医でも直接診たことがないドクターが大半です。

そんなポリオですが、ニューヨークで10年ぶりに患者が発生したとの報道がなされました。

ニュースをご紹介しつつ、ポリオについて分かりやすく解説してみたいと思います。

では行ってみましょう!

ポリオに関する最近の報道

2022年7月21日、米ニューヨーク州保健当局がニューヨーク州のロックランド郡の住民がポリオに感染したことを確認したと発表しました。

アメリカでポリオ患者を確認 約10年ぶり - BBCニュース
米ニューヨーク州の成年の若者がポリオに感染したと、州保健当局が21日発表した。アメリカの住民の感染が確認されたのは約10年ぶり。

また、その後2022年8月13日には、米ニューヨーク市の下水から野生型のポリオウイルスが検出されたとの報道がなされました↓

米NY市の下水からポリオウイルス検出
【8月13日 AFP】米ニューヨーク市の下水からまひが残ることもある病気ポリオを引き起こすウイルスが検出されたことを受け、保健当局は12日、市内で同ウイルスが拡散している可能性が高いとしてワクチン接種を呼び掛けた。

「なぜ下水?」と思った方もいるかもしれません。

新型コロナウイルスでも、下水を使った感染モニタリングが始まっているのをご存知でしょうか?

ある地域の下水の中に、どの程度のウイルスがいるかを観測することで、地域の流行の立ち上がりを予測するという取り組みです。

実はこの下水の観測、もともとは新型コロナではなく、ポリオウイルスの観測が先なんです。

その観測結果によって、ニューヨークという都市でポリオが広まりつつあることに警告がなされたのです。

どんな病気?

ポリオは別名「急性灰白髄炎」といいます。

ポリオウイルスが中枢神経に感染することにより生ずる四肢の急性弛緩性麻痺を典型的な症状とする病気です。

弛緩性四肢麻痺というのは、手足に力が入らなくなる麻痺のことをいいます。

かつては小児に多かったため、「小児麻痺」という呼ばれ方をされた時代もありました。

現在はワクチンにより、先進国では撲滅に近い状態を維持できています。

どんなウイルス?

(写真:国立感染症研究所HP)

ポリオウイルスには、抗原性により1型、2型、3型の3種類があり、人から人に感染します。

ポリオウイルスが人の口の中に入って、腸の中で増えることで感染します。増えたポリオウイルスは、再び便の中に排泄され、この便を介してさらに他の人に感染します。成人が感染することもありますが、乳幼児がかかることが多い病気です。

ポリオウイルスに感染しても、多くの場合、病気としての明らかな症状はあらわれずに、知らない間に免疫ができます。

これを不顕性感染と言います。

実はこのウイルス、感染しても90〜95%が不顕性感染で終わることがわかっています。

残りの4~8%はカゼのような症状(発汗、下痢・便秘・悪心・嘔吐などの胃腸症状、咽頭痛・咳などの呼吸器症状など)にとどまる不全型で終わり、さらに残りの0.5~1%が非麻痺型(不全型に髄膜刺激症状が加わり、無菌性髄膜炎となるが、麻痺を伴わない)で、さらに残った約0.1%が典型的な麻痺型(弛緩性麻痺: AFP)を起こすと言われています。

どんな症状?

典型的な麻痺型ポリオは、1-2日のカゼ症状の後、解熱に前後して急性の弛緩性麻痺が四肢に現れます(だらんとした麻痺)。

麻痺の部分は痛みを伴うため、カゼで発熱したこどもが解熱し始めた晩に「背中が痛い」とうめき、翌朝突然下肢の麻痺が現われるといったことが多くみられます。

(写真:国立感染症研究所HP)

麻痺型患者の約50%が筋拘縮や運動障害などの永続的後遺症を残します。

定型的麻痺では、球麻痺を合併して嚥下障害、発語障害、呼吸障害を生じることがあります。

死亡例のほとんどは、急性呼吸不全によるものであり、死亡率は、麻痺型となった小児の約4%、球麻痺合併例や成人で約10%とされています。

どうやって診断するの?

上記のような症状が出たら、便の中にポリオウイルスがいるか検査をします。

具体的には、地域の保健所を通じて、感染症の専門研究施設に便の検体を送って検査をしてもらうことになります。

治療は?

麻痺の進行を止めたり、麻痺を回復させるための治療が試みられてきましたが、現在、残念ながら特効薬などの確実な治療法はありません。

麻痺に対しては、残された機能を最大限に活用するためのリハビリテーションが行われます。

ポリオとワクチンの歴史

日本におけるポリオは、1940年代頃から全国各地で流行がみられ、1960年には北海道を中心に5,000名以上の患者が発生する大流行となりました。

そのため1961年に口から飲ませるワクチン(OPV)を緊急輸入し、一斉に投与することによって流行は急速に終息しました。

引き続いて国産OPVが認可され、1963年からは国産OPVの2回投与による定期接種が行われるようになり、1980年の1型ポリオの症例を最後に、日本国内では野生型ポリオウイルスによるポリオ麻痺症例は見られていません。

OPVは安価で簡単に接種できるというメリットがありましたが、生ワクチンであったため少ないながらポリオの症状が発症してしまうケースがありました。

そこで日本では2012年9月から皮下注射型のワクチン(IPV)に変更になりました。IPVは4回の接種が必要です。

なぜ今でもポリオワクチンが必要なのか?

大半が不顕性感染で症状もなく治ってしまうと聞くと、「なぜそんな重症化率の低いウイルスに全員ワクチンをしないといけないの?」という疑問を持つのはごく自然なことだと思います。

理由は2つ。

1つは、確率は低くても、麻痺型に進行してしまうと思い後遺症が残ったり、場合によっては死に至る可能性がある病気だからです。これは理解しやすいですね。

もう一つは、世界からなくなったウイルスではないということです。これは今回のニューヨーク州からの報道そのものですね。

海外では、依然としてポリオが流行している地域があります。パキスタンやアフガニスタンなどの南西アジアやナイジェリアなどのアフリカ諸国です。

ポリオウイルスに感染しても、麻痺などの症状が出ない場合が多いので、海外で感染したことに気が付かないまま帰国(あるいは入国)してしまう可能性があります。

症状がなくても、感染した人の便にはポリオウイルスが排泄され、感染のもととなる可能性があります。

また、新型コロナウイルスで「集団免疫」という言葉が有名になりましたが、日本では大多数の人がワクチンにより免疫を持っているために、流行が抑えられているという側面があります。

このような理由から、今でも重要なワクチンと捉えられており、予防接種法によって定期接種としていされているわけです。

ケイジ理事長
ケイジ理事長

いかがでしたか?

知っているようで知らないポリオ。

恥ずかしながら小児科医として私もみたことがなかったので、今回の記事を作るにあたって、改めて勉強することができました。

ママ友(パパ友)との会話でポリオのことが話題に上がったら、ぜひこのブログの内容を教えてあげてくださいね。

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