今話題の「サル痘」とは?

感染症科
ケイジ理事長
ケイジ理事長

「また新型ウイルスか?」と世間を騒がせている『サル痘』。

2022年5月時点で日本国内では確認されていませんが、世界に目を向けると欧米を中心に200人を超える感染者が発生しています。

新型コロナウイルスにようやく慣れてきたこの時期に新たなウイルス。心中穏やかではないですね。

今日はそんな謎の感染症「サル痘」について解説したいと思います。

どんな病気?

サル痘ウイルス(Monkeypox virus)は、ポックスウイルス科のオルソポックスウイルス属(天然痘・牛痘と同じ属)に属する包まれた二本鎖DNAウイルスです。

ウイルスがなんらかの形で体内に入ると、5~21日の潜伏期を経て(大部分は6~13日)発症します。

発熱、激しい頭痛、リンパ節の腫れ、背中の痛み、筋肉痛、激しい無力症などの症状が0〜5日程度持続し、発熱1〜3日後に発疹が出現します。

皮疹は顔面や四肢に多く出現し、徐々に隆起して水疱、膿疱、痂皮(かさぶた)となります。

(写真:CDCホームページ)

病変の数は、数個から数千個までさまざまです。病変は、口腔内粘膜(患者の70%)、生殖器部(30%)、眼瞼結膜(20%)、並びに眼球結膜にも及びます。

通常、それたの症状は2〜4週間続いて、自然と消退していきます。

最近の致命率は3〜6%程度とされており、小児の方が重症化する傾向にあるようですが、その他にも重症化はウイルスの暴露量、患者の健康状態、合併症の重症度などとも関係します。

どうやって感染が広がるの?

主にアフリカに生息するリスなどの齧歯類(げっしるい)をはじめ、サル、ウサギなどウイルスを保有する動物との接触によりヒトに感染し始めたと考えられています。

次第にヒトからヒトに感染するようになっており、主に接触感染と飛沫感染で感染が広がるとされていますが、主に大きな呼吸器飛沫によって起こると考えられており、大きな飛沫は通常数フィート以上移動できない(長時間空気中に浮遊できない)ため、長時間の対面接触がなければそう簡単には感染は成立しないようです。

一方、感染者の皮膚病変にはウイルスが存在しているため、直接の接触や最近汚染された物体との密接な接触により感染する可能性があります。

英国保健安全保障省は、英国内の省令の疫学調査においては、ゲイ・バイセクシャル・その他の男性間の性交渉を行う者での感染事例が多いことを指摘しています。(ただしその経路が全てではないので、無用な偏見や差別は避けなければなりません!)

サル痘の歴史

人でのサル痘は、1970年にコンゴ民主共和国(当時の国名はザイール)で9歳の少年から発見されたのが最初でした。

以後、患者の多くがコンゴ盆地からアフリカ西部、特にコンゴ民主共和国の僻地にある熱帯雨林地域から報告されました。それ以後コンゴ民主共和国ではこの疾患が常在していると考えられています。(同国では1996-97年に大規模な集団発生が起こっています。)

2003年の春、サル痘患者がアメリカ合衆国中央平原で発見されました。これは、アフリカ以外の大陸で発見された初めての患者でした。患者の多くはペットにしていたプレーリードックと密に接触していました。

2005年、スーダン・ユニティ州で集団感染が起こりました。

2016年8月から10月にかけて、中央アフリカ共和国では、患者26人と死亡者2人によるサル痘の集団感染が発生しました。

2022年5月19日現在、同月内に英国でナイジェリアから帰国後の患者がサル痘と診断されたのを発端に、計9例の患者が報告されています。その多くは発端の患者と接点がなく流行地への渡航歴のない、男性同士で性交渉をされる方でした。

2022年5月19日現在、スペインやポルトガル、カナダにおいても男性同士で性交渉を行う人の間で、確定患者または疑い例の集団発生(各20例前後)が報告されています。

さらにアメリカ、スウェーデン、イタリア等でも確定患者が報告されています。

日本ではまだ報告はありません(2022年5月27日現在)。

どうやって診断するの?

症状や発生地域への渡航歴、ペットの飼育歴(海外からの輸入)、性交渉歴などを確認し、サル痘を疑った場合、主に水疱や膿疱の内容液や蓋、あるいは組織を用いてPCR検査で遺伝子を検出することが有用です。

他にも下記のような様々な検査法がありますが、高度な検査施設でしか検査できません。

  • 酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)
  • 抗原検出検査
  • 細胞培養によるウイルス分離

考えるべき鑑別診断には、天然痘、水痘、麻しん、細菌性皮膚感染症、疥癬、梅毒および薬物関連性アレルギーなどの皮膚病変があります。

治療・予防は?

サル痘の感染に対する特別な治療法・ワクチンはありませんが、天然痘と同じ属のウイルスであるため、天然痘治療薬や天然痘ワクチンが使用されることがあります。

天然痘用の治療薬として開発されたtecovirimatというお薬が2022年に欧州医薬品庁(EMA)によってサル痘への使用が認可されました。しかしながら一般的に入手できる段階にはありません。

天然痘ワクチンがサル痘に対しても85%の発症予防効果があるとされています。

しかし、天然痘は地球上からの撲滅されたことでワクチン接種が中断されたので、現在は天然痘ワクチンは一般的に入手困難です。(発生国ではすでに入手・製造に動いているという報道もあります)

全世界で感染者増加。警戒レベル引き上げる。(2022/6/14追加)

CDCは、欧州や北米、南アメリカ、アフリカなどの29カ国で1019人の感染者が確認されていると指摘しました。

現時点で最も感染者が多いのは英国(302人)。

スペイン(198人)とポルトガル(153人)と続く。

北米ではカナダで80人、米国で30人の感染が確認されています。

最高水準の1つ下で注意を強化する警告レベル2に引き上げました。

感染者と接触後でもワクチン接種することで発症や重症化を抑え、周囲の感染リスクを減らせることがわかりました。

米疾病対策センター(CDC)や英保健安全局は患者との接触から4日以内、遅くとも14日以内の接種を勧める。スピード勝負の局面で、例外対応が壁になる恐れもある。

ワクチンの備蓄量は危機管理の一環で明らかにしていませんが、おそらく広く一般に接種できるほどはないと思われるので、接触して感染したリスクのある人や医療従事者に打つ「包囲接種(リング接種)」を行うことで、押さえ込むことが期待できます。

WHO「サル痘は緊急事態にあらず」(2022/6/27追加)

2022年6月25日、WHOはサル痘について、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態にはあたらないと判断した」と発表しました。

サル痘の確認された症例の大半は男性であり、これらの症例のほとんどは、都市部で男性とセックスし、社会的および性的ネットワークがクラスター化されたゲイ、バイセクシュアル、その他の男性の間で発生していることが発表されました。

日本の報道ではこの点が伝えられていませんが、差別や偏見を配慮する目的があるものと思われます。

もちろん、上記のような発表は現在までの感染状況の特徴を表したもので、今後は感染者周辺の人には性交渉以外でも広がる可能性があるので、感染したからと言って、差別的な扱いをしたり、偏見を持ったりしないようにすることが大事です。

これはひと昔前にエイズ(AIDS:後天性免疫不全症候群)での差別・偏見と似ています。

このブログの読者には、冷静で優しい対応を求めます。

WHO、サル痘で「緊急事態」と宣言(2022/7/24追加)

2022年7月23日、WHOのテドロス事務局長は、欧米で広がっているサル痘について、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に当たると宣言しました。

1ヶ月前には1000名強の感染者でしたが、現在は75カ国で合計1万6000人以上の感染者が確認されています。

ただし、感染リスクが高いのは欧州のみで、他の地域では「穏やか」とも説明しています。

EUではデンマークのメーカーが開発した天然痘ワクチンをサル痘に使用できるよう、欧州医薬品庁が勧告しました。欧州委員会が承認を最終決定する見通しです。

日本国内で1例目が発生(2022/7/26追加)

1例目の患者さんに関して厚労省が公表している情報は、以下のとおりです。

  • 年代:30代
  • 性別:男性
  • 症状:発熱、発疹、頭痛、倦怠感
  • 医療機関受診日:7月25日
  • 居住自治体:東京都
  • 海外渡航歴:あり(欧州)
  • その他:渡航先にて、その後サル痘と診断された者との接触歴有

患者の状態は安定していて、現在、東京都内医療機関において入院中とのこと。

日本国内で2例目を確認(2022/7/28追加)

厚労省が提供している情報は以下の通りです。

  • 北中米在住の30代男性(国籍は明らかにされていません)
  • 7/21から倦怠感。その後日本に入国。
  • 7/27に口腔内に発疹(できもの)ができたと都内の医療機関を受診。
  • 厚労省「入国前に感染した可能性が高い」と判断。

アメリカ、サル痘で緊急事態宣言(2022/8/5追加)

米疾病対策センター(CDC)によると、8/3時点で米国内の感染者は6600人以上に上っている。

CDC厚生長官は「我々はこのウイルスに対処するため、対応を強化する必要がある。全ての米国人にサル痘を真剣に受け止めるように求める」と述べた。

日本国内で3例目を確認(2022/8/6追加)

厚労省が発表している情報は以下の通り。

  • 米軍横田基地に所属する在日米軍関係者の20代男性(国籍は明らかにされていない)
  • 海外から短期入国した人と接触があった
  • 国内で感染したと見られる初のケース
  • 頭痛・倦怠感、発疹などの症状を訴えていた。
  • 1例目、2例目との接触・関連は確認されていない。

日本国内での感染確認4例目(2022/8/10更新)

千葉県によると、ヨーロッパから成田空港に入国した国外に住む30代の男性が感染していることが確認されました。

男性は今月6日から発疹の症状があり、9日、ヨーロッパからの航空便で成田空港に入国した際に検疫所で症状を自己申告し、医師の診察をうけたところ、サル痘の疑いがあることがわかりました。

県によると、男性は入国してから空港と医療機関以外の移動やほかの人との接触がないことから国内で感染が広がるリスクは極めて低いとのことです。

世界で35000人以上が感染。12人が死亡(2022/8/19更新)

WHOは、これまでに92の国と地域で3万5000人を超える感染者が確認され、12人が死亡したことを明らかにしました。

感染が確認された人の多くが男性で、感染のほとんどが男性同士による性的接触で起きているとのことですが、女性や子どもへの感染も報告されています。

また、サル痘という名称が「特定の集団や動物への偏見につながる」という指摘が出ていることから、WHOは新たな名称を協議する方針だそうです。

参考文献

本記事は、下記サイト・ファクトシートを元に情報をまとめたものです。

ケイジ理事長
ケイジ理事長

勉強してみてわかりましたが、本来はそれほど感染力の高いウイルスではなさそうです。

ただし、世界中で増加傾向にあることを考えると、新型コロナウイルスのようにウイルスが変異している可能性も想定しておかなければならないかもしれませんね。

6月から日本でも渡航制限が大幅に緩和されることが決まりましたが、発生地域に渡航する予定がある方などは十分な知識とそれに基づく行動が必要です。

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