なったことも見たことも無くても、誰もが知っている「おたふくかぜ」。
ワクチンの接種率が上がり、最近は「ホンモノ」はあまり見なくなりましたが、耳の下(アゴ)が腫れるとおたふくを疑われてしまいます。
おたふくかぜの原因・治療、似て非なる疾患などについて解説してみましょう。
どんな病気?
ムンプスウイルスというウイルスの感染症。
季節性はあまりありませんが、保育園などの施設での散発的な流行がみられます。
感染すると唾液の中にウイルスが増えます。ウイルスを含んだ飛沫が咳やおしゃべりで飛んでいって別の人の口や鼻などの粘膜に付着することで感染します。
感染すると2~3週間の潜伏期(平均18 日前後)を経て、唾液腺の腫脹・圧痛、嚥下痛、発熱を主症状として発症し、通常1 ~2週間で自然に軽快します。
唾液腺の腫脹は、耳下腺(耳の下)に起きることが殆どですが、まれに顎下腺(アゴの下)や舌下腺(舌の裏)が腫れることもあります。
唾液腺の腫脹自体は自然に治りますが、問題となるのは合併症(サブの症状)です。
重大な合併症として
- 無菌性髄膜炎
- 難聴
- 睾丸炎・卵巣炎
- 膵炎
などが挙げられます。
無菌性髄膜炎は自然に治る軽症例が殆どですが、ごく軽いのも含めると10人に1人発生するという統計があります。
難聴は逆に20000人に1人と確率は低いのですが、発生すると将来にわたって難聴が持続します。
思春期以降に感染すると、睾丸炎(20〜30%)や卵巣炎(約7%)を起こすことがあり、不妊の原因となることがあります。
こう見ていくと、おたふくかぜというのは、主要な症状よりも合併症の方が怖い病気だと考えた方が良いでしょう。
どうやって診断するの?
「耳の下(アゴ)が腫れてきた」と言って連れてこられますが、実は耳下腺が腫れる病気にはいくつかあります。
- 細菌性耳下腺炎
- ウイルス性耳下腺炎
- 反復性耳下腺炎
- 唾石症
など、いろんな病気があります。
1の細菌性耳下腺炎は、口の中のバイキンが唾液の出口から逆行して唾液腺に入って感染・炎症を起こす病気です。治療には抗菌薬(抗生物質)が必要です。
2のウイルス性耳下腺炎の中に、おたふくかぜ(ムンプスウイルス)が含まれます。ムンプスウイルス以外にも、コクサッキーウイルスやパラインフルエンザウイルスというウイルスも耳下腺炎の原因になります。
3は何度も耳下腺炎を繰り返す病気です。アレルギーや耳下腺自体の異常や虫歯などが原因になると言われていますが、詳しいことはわかっていません。
4は唾液が乾燥して、結晶化して石のようになって唾液が出る管を詰まらせてしまい、唾液が出せなくなって耳下腺が腫れてしまう病気です。
一口で「アゴが腫れる」といっても、上記のような病気を考えながら、鑑別していく必要があります。
検討していく中で最も重要なのは「周囲の発生状況」と「本人のワクチン接種歴」です。
それでも確定が難しい場合は、血液検査で抗体価(免疫)を調べることで本当にムンプスウイルスに感染しているかは分かります。ただし、結果が判明するまでに1週間近くかかりますので、わかった頃には治っているということが殆どです。
治療は?
ムンプスウイルスを殺すようなお薬はなく、自然治癒する病気ですので、治療としては痛みを軽減してくれる解熱鎮痛剤の服用が主なものとなります。
細菌性耳下腺炎が疑われる場合には、抗菌薬を使用するケースもあります。
この病気はワクチンが重要です。
現在日本では任意接種(自費)となり費用負担が必要ですが、諸外国では定期接種(公費)に組み入れられており、いずれ定期接種になると思われます。
推奨スケジュールは「1歳」と「就学前」の2回とされています。MR混合ワクチンと同じタイミングですね。ワクチン接種で90%以上の方に免疫ができるとされています。
ホームケアのポイント
アゴの痛みは、通常、発症から48時間をピークに自然に軽減してきます。痛みがひどい時は鎮痛剤を使用しましょう。
ご家庭で見ているうちに、強い頭痛や嘔気・嘔吐が出現したら、髄膜炎を起こしている可能性がありますので、かかりつけ医を早めに受診しましょう。
おたふくかぜは登園停止になる病気です。登園の基準は、
「耳下腺、顎下腺又は舌下腺の腫脹が発現した後5日を経過し、かつ、全身状態が良好になるまで」
と決まっています。腫れたり熱が出始めたりした日を「0日」と計算し、5日間経過して、6日目から登園が可能となりますので、日数の計算には注意が必要です。
いかがでしたか?
おたふくかぜの主症状、アゴの腫れや発熱というのは基本的には自然に治る病気ですが、合併症がかなり怖い病気ですよね。
外来でも時々おたふくかぜが原因で難聴になっているお子さんに遭遇します。
ワクチンは任意接種で自己負担が必要ですが、聴力は一生ものですので、ぜひワクチンで守ってあげて欲しいと思います。
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