最近ニュースなどで「謎の肝炎」という言葉を聞いた方はいませんか?
イギリスなどを中心に、世界各地でコドモに発生する「原因不明の急性肝炎」が報告されています。
原因不明と言われるとちょっと怖いですが、少しずつ情報が出てきましたので、現時点でわかっていることを解説したいと思います。
これまでの経緯
2022年1月以降、英国において10歳未満の小児の「原因不明の急性肝炎」事例が発生し始めました。
WHO(世界保健機関) は、4月21日時点で米国及び欧州諸国の11カ国から169例の小児の原因不明の急性肝炎が発生していることを報告しました。
英国以外にもスペイン、イスラエル、米国、デンマーク、アイルランド、オランダ、イタリア、ノルウェー、フランス、ルーマニア、ベルギーからも同様の報告があり、日本でも1例疑い症例が発生しているそうです。
大半が治癒・改善していますが、全体のうち17例が肝移植を要し、1例が死亡したとの報告もあるため、今後の経過に注意が必要です。
一部の症例からは「アデノウイルス」が検出されていますが、全例ではないため、本当にアデノウイルスが原因であるかは調査中です。原因は別にあって、「たまたまアデノウイルスにも感染していた」だけかもしれないということです。
どんな症状があるの?
これまでの報告例の年齢は生後1ヶ月から16歳までと幅があります。
多くの症例で、腹痛・下痢・嘔吐などの消化器症状が先行した後に、黄疸と急な肝臓のデータの悪化(ASTやSLTなど)が出現しています。
ほとんどの症例で発熱は認めなかったとの報告もあります。
どうやって診断するの?
上記の症状を見ていただくとお分かりかと思いますが、腹痛・下痢・嘔吐が主症状である初期には、初通常のウイルス性胃腸炎と区別することはほぼ無理だと言えます。
ですので始めは「ウイルス性胃腸炎の治療」、つまり整腸剤や水分管理などの「対症療法」を行うことになります。
通常のウイルス性胃腸炎であれば数日で回復しますが、肝炎を併発すると黄疸や倦怠感が出現します。
この時点で、ドクターは肝炎を疑って血液検査をすることになります。(はじめから全例血液検査をすることは通常ありません)
もし血液検査で上記のようなASTやALT、ビリルビンなどの肝臓の数値が上がっていると肝炎と診断し、入院で治療を開始することになります。
ただし、これだけで「謎の肝炎」と診断されるわけではありません。
ここからはすでに知られているウイルス肝炎(A型〜E型)やEBウイルス、サイトメガロウイルスなどの感染について検査を進めます。もしそれらのウイルスが見つかった場合は「謎の肝炎」ではなく、「原因が特定できた肝炎」ということになります。
治療は?
「謎の肝炎」と診断された場合、まだ治療方法は確立していませんので、通常のウイルス性肝炎と同様の治療を行う可能性が高いと思われます。
食欲がない間は点滴をすることがあります。
また肝臓を保護するお薬を使用するケースもありますが、大半の方は無治療で改善していきます。
ただし、一部の患者さんでは急激に肝臓の機能があっかする「劇症肝炎」という状態になるケースもあり、その場合は集中治療室での治療をおこなったり、場合によっては肝臓移植が必要になることもあります。(かなり確率は低いので、過度な心配は不要です)
国内の状況(2022.5.6時点)
現時点では小児の急性重症肝炎が著しく増えているという兆候はないようです。
学会など医師のネットワークでもそのような症例の噂も出てきていません。
4月ごろからアデノウイルスによる咽頭炎や腸炎はパラパラみられるようにはなっていますが、黄疸を起こしているような報告はほとんど上がってきていないようです。
現在、自治体や保健所を通じて、医療機関には注意喚起がなされているので、今後私たちはそのような兆候がないかを意識してチェックしていくことになります。
現在は「アデノウイルス」というキーワードが一人歩きしはじめているのですが、アデノウイルスの有無にかかわらず、「胃腸炎の後の黄疸・倦怠感」というポイントが重要になってきます。
もしそのような状況で黄疸が出てきたら、かかりつけ医に早めに相談しましょう。
黄疸によく似た状態に「柑皮症」というのがあります。こちらはミカンや野菜ジュースを摂りすぎた時に手や皮膚が黄色くなる状態で、病気ではありません。
黄疸では?と心配して来院されるケースもありますが、1番の違いは「白目が黄色くなるか」です。
黄疸は白目が黄色くなりますが、柑皮症では白目は黄色くなりません。
とは言え、一般の方には判断がしにくいケースもありますので、迷ったらかかりつけ医に相談してみましょう。
追加情報(2022.5.9)
アメリカでは2021年10月以降、判明しているだけでも109名に発生している模様。
109名のうち、90%が入院し、14%で肝臓移植が必要になったとの情報。
半数以上の患者は「アデノウイルス41」が検査で陽性だった。
アデノウイルス41は通常、胃腸炎を起こす程度で、健康な小児が肝炎を起こすことはない。
アメリカCDC(厚労省のような組織)では、新型コロナウイルス感染対策のロックダウン(都市封鎖)によって数年間抑えられていたアデノウイルスの感染者数が増加している可能性や、より危険な変異株が出現した可能性が考えている。
この他、自宅内のペットの存在などの環境要因や、新型コロナウイルスが関係している可能性についても調べている
(参考文献:AFPBB News)
追加情報(2022/6/10)
2021年10月以降の5月26日10時までの報告状況
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